しいたけ、さつまいも、かぼちゃ。それに前の日に買っておいた秋鮭。
さつまいもはアルミで巻いて、いちばん最初に炭へ埋めました。そのまま1時間ほったらかしです。
直売所は、やっぱり安い
農産物直売所が安いのは、市場や卸を通さずに、作った人が自分で値段をつけて並べているからです。流通の段階が少ないぶん、そのまま値段に出ます。
値札に生産者の名前が入っているのも直売所らしいところで、「これは○○さんの畑のか」と分かるのが楽しい。
ただし、名前が書いてある=安全の保証ではありません
生産者名が分かるのは身元が分かるというだけで、鮮度や安全を誰かが検査した印ではありません。とくに山でとれたきのこや山菜は、売っている人でも種類を見まちがえることがあります。見たことのないきのこや山菜は買わない、買ったら必ず中までしっかり火を通す。ここだけは気をつけています。
さつまいもは、いちばん最初に埋める
洗って、水気を拭いて、アルミホイルでぐるぐる巻きにします。
炭に火を入れて、赤く熾ってきたところで、この包みをコンロに入れます。
焼き芋は、なぜあんなに甘くなるのか
ここが今回いちばん調べたところです。
さつまいもの甘さの主役は麦芽糖(マルトース)で、これは焼いている最中に作られます。いもにもともと入っているβ-アミラーゼという酵素が、熱でやわらかくなった(糊化した)デンプンを分解して糖に変える。これが焼き芋の甘さです(日本いも類研究会/農研機構)。
大事なのは温度でした。デンプンが糊化しはじめるのがだいたい65〜75℃、そしてβ-アミラーゼ自身も熱に弱くて、おおむね70℃前後を超えると壊れていきます。つまり「デンプンがほぐれていて、まだ酵素が生きている」ごく狭い温度帯を、どれだけ長く通せるかが勝負なわけです。
電子レンジだと甘くなりにくい理由
埼玉大学の実験(家政学雑誌 1976年)では、焼き芋の糖の生成量は電子レンジ加熱のおよそ2倍でした。電子レンジでは90秒でβ-アミラーゼが完全に失活したのに対し、じっくり焙焼したほうは90分たっても数%の活性が残っていたそうです。急に熱を入れると、酵素が仕事をする前に死んでしまう、ということでした。
ただし「レンジは絶対だめ」ではありません。低い出力でゆっくり温めれば甘くできます。
⚠️ アルミホイルのまま電子レンジに入れないでください
火花が出て発火するおそれがあります。レンジで温めるときはホイルを全部はずして、ラップかキッチンペーパーに替えてください。
それと、さつまいもは水分が少なく糖分が多いので、レンジで加熱しすぎると中が炭のようになって庫内で燃え出す事故が実際に起きています。時間はいもの大きさと機種で変わるので、短めで止めて竹串で確かめながら足していくのが安全です。加熱中はその場を離れないでください。
「炭に埋める」は、じつは石焼き芋と同じではなかった
今回うまくいったので気分よく書きたいところですが、調べてみるとやり方としては危ういほうでした。
石焼き芋は、石の蓄熱で表面は250℃くらいになりながら、いもの内部は65〜75℃に保たれたまま1時間ほどかけて火が通ります。外は高温、中はぬるい。これを同時に成立させているのが石の役目です。
いっぽう熾火(おきび)は600〜700℃にもなると言われていて、赤い炭の真ん中に直接うずめると、表面だけ一気に焦げて中は生、という失敗になりやすい。「炭に埋める=ゆっくり加熱」ではなかったわけです。
アウトドアの記事では、熾火の縁のほうに置いて遠火で40〜60分、濡らした新聞紙で包んでからホイルを巻くと水分が逃げず蒸し焼きになる、と紹介されています。次はそうしてみます。
焼いたあとの置きっぱなしに注意
焼きあがった芋をホイルに包んだまま何時間もテーブルや車に置いておくのは避けてください。空気の少ない状態で常温に置くのは、食中毒菌が増えやすい条件です。食べきれない分はホイルをはずして粗熱をとり、冷蔵か冷凍で。
秋鮭を焼く
炭がおきたら網を乗せて、秋鮭を並べます。
「秋鮭」というのは主にシロザケのことで、産卵のために日本の川へ帰ってくる時期に獲れたものを指します。産卵に向かう魚なので脂は控えめで、そのぶん身がしっかりしています。
ついでに知って意外だったのが、鮭は分類のうえでは白身魚だということ。あのオレンジ色はアスタキサンチンという色素で、餌から取り込んで身に溜まったものだそうです。
⚠️ 「生秋鮭」は生では食べないでください
スーパーで「生鮭」「生秋鮭」と書かれた切り身は、火を通して食べるためのものです。天然の秋鮭には寄生虫がいることがあるので、刺身などで生のまま食べるのは避けてください。
お店で出てくるサーモンの刺身は、養殖されたものを生で食べられるように冷凍処理した別ものです。
なお「-20℃で24時間以上の冷凍で死滅」という数字を見かけますが、これは業務用の冷凍設備を前提にしたものです。家庭の冷凍庫はだいたい-18℃までしか下がらず、扉の開け閉めで温度も上がるので、「家で凍らせたから生でいける」とは考えないでください。
いちばん分厚い切り身は妻の皿へ。自分はカマをもらいました。えらの後ろ、胸びれのまわりの部位で、身は少ないけれど脂がのっていて、ここがいちばん好きです。
味つけは醤油と「ほりにし」
アウトドアスパイスの「ほりにし」は、和歌山のアウトドアショップの店長さんが作った調味料です。名前はその方の名字から来ています。発売後にじわじわ広がって、いまではキャンプ売り場でよく見かけるようになりました。
魚に合うかどうか半信半疑でしたが、醤油だけの切り身と食べ比べると、こちらのほうが手が伸びました。次も使います。
しいたけは、炭火にすると別ものになる
しいたけは軸を落として、ひだ(傘の内側)を上にして網へ。裏返さずに焼くと、そのくぼみに汁がたまってきます。生しいたけはおよそ9割が水分なので、出てくるのは当然といえば当然でした。
旨味の話も調べました。しいたけの旨味というとグアニル酸が有名ですが、これが多いのは干ししいたけのほうで、生しいたけの旨味はむしろグルタミン酸が主役だそうです(うま味インフォメーションセンターの成分データでは、生しいたけがグルタミン酸70mg/100g、干ししいたけは1060mg/100g+グアニル酸150mg/100g)。
そしてグアニル酸は、生の状態ではごくわずかで、乾燥や加熱の過程で作られるとされています。焼くとうまくなるのには、ちゃんと理由があったわけです。
⚠️ 汁が出た=焼き上がり、ではありません
汁は焼きはじめてわりと早く出てきます。そこからもう少し焼いて、かさ全体がしんなりして中まで熱が入ってから食べてください。しいたけは生や生焼けだと、まれに体に赤い線のような発疹(しいたけ皮膚炎)が出ることがあります。しっかり火を通せば心配ありません。
それと、この記事で書いているのはスーパーや直売所で売られている栽培きのこ(しいたけ・まいたけ・しめじなど)の話です。山や庭に生えている野生のきのこは、図鑑の写真や「虫が食べているから大丈夫」といった言い伝えでは見分けられません。専門家に確認できないものは口に入れないでください。
1時間たった芋を割る
そろそろかと思って炭から出し、包みを開けて割ってみると、湯気が出ました。
そこにバターを落とします。
この組み合わせが、今回いちばん強かったです。芋の甘さに塩気が乗ると、甘さのほうが際立つ。子どもより先に手が出ました。
ちなみに、買ってきたのは「シルクスイート」という名前のさつまいもでした。調べてみるとこれはカネコ種苗の登録商標で、種苗法に登録されている品種名は「HE306」。「春こがね」と「紅まさり」を掛け合わせたもので、育成した会社は肉質を「しっとりとした粘質」と説明しています。安納芋のような「ねっとり系」とは少し違って、しっとり・なめらか系に分類されるようです。
さつまいもは、寝かせたほうが甘い
さつまいもは収穫直後より、しばらく貯蔵したほうが甘くなります。千葉県農業試験場の試験(1990年)では、13℃で貯蔵すると1か月でショ糖が約4%まで増え、品種によっては6か月後に8〜10%に達したそうです(収穫時は約2%)。
ちなみに「キュアリング」という言葉を見かけますが、これは収穫直後に高温多湿の場所に数日おいて傷口をふさぎ、腐るのを防ぐ処理のことで、甘くするための工程ではありません(結果としてショ糖は増えます)。
なお、貯蔵中に増えるのは主にショ糖で、焼いているときにできる麦芽糖とは別ルートの甘さです。焼き芋は、この2つが重なっているわけでした。
日が暮れるのが早くなった
気がつくと手元しか見えなくなっていました。ランタンの明かりだけで、残りのしいたけをつまんで終わりです。
📋 今回のまとめ
- 焼き芋の甘さの主役は麦芽糖。いもの中のβ-アミラーゼが、熱でほぐれたデンプンを分解して作る
- デンプンが糊化するのが65〜75℃、酵素が壊れはじめるのが70℃前後。この狭い帯をゆっくり通すほど甘い
- 電子レンジだと90秒で酵素が失活する。焙焼と比べて糖の生成量はおよそ半分(埼玉大学・1976年)
- ⚠️ アルミホイルのまま電子レンジに入れると発火のおそれ。ホイルは必ずはずす
- 熾火は600〜700℃。炭に直接うずめると外は焦げて中が生になりやすく、石焼き芋とは別物
- 石焼き芋は表面250℃・内部65〜75℃を1時間保つ。それを石の蓄熱でやっている
- さつまいもは貯蔵すると甘くなる(13℃で1か月・ショ糖が約2%→約4%)。増えるのはショ糖で、焼いてできる麦芽糖とは別
- キュアリングは腐敗を防ぐ処理であって、甘くするための工程ではない
- シルクスイートは商標で、登録品種名は「HE306」。肉質は「しっとりとした粘質」
- 秋鮭は主にシロザケ。産卵に向かうため脂は控えめで身がしっかりしている
- 鮭は分類上は白身魚。オレンジ色はアスタキサンチンという色素
- ⚠️ 「生秋鮭」は加熱用。刺身のサーモンは養殖+冷凍処理された別もの
- 生しいたけの旨味はグルタミン酸が主役。グアニル酸が多いのは干ししいたけ
- グアニル酸は生の状態ではわずかで、乾燥や加熱の過程で作られる
- 生しいたけは約9割が水分。焼くと汁が出るのはそのため
- ⚠️ 汁が出ても中まで火が通ったサインではない。生焼けはしいたけ皮膚炎の原因になる
- 直売所が安いのは流通の段階が少ないから。ただし生産者名は安全の保証ではない
おわりに
朝に買ってきたものを、その日の夕方に庭で焼いただけの一日でした。手間らしい手間はかけていません。
それでも調べてみると、焼き芋が甘いのにも、しいたけが焼くとうまいのにも、ちゃんと仕組みがありました。いちばん意外だったのは「炭に埋める」が実は乱暴なやり方だったことです。今回はたまたまうまくいきましたが、次は熾火の縁に置いて遠火で焼いてみます。
まいたけはチューブのバターを入れてホイルで包み、炭に入れておきました。開けたころには真っ暗で、家の中に持ち込んで晩酌の肴になりました。その話はあらためて書きます。
同じ庭の炭火では、半額のホルモンと焼き鳥を焼いた話や、一匹150円の秋刀魚を七輪で焼いた話も書いています。
前の日にコストコで4万円使った話もあります。この日の秋鮭は、そのとき買ったものでした。
日が暮れるのが早くなりました。炭を熾せる季節は、これからが本番です。