しかもこの鮑、まだ生きています。元気な新人さんをスカウトしてしもたからには、晴れ舞台を用意せんといけません。
ステージは焼き鳥用の卓上電気グリル、客席のお供はビール。生きた鮑2個による「踊り焼き」の発表会、開演です。
開演前:小ぶりの鮑を、スカウトしてしもた
その日、僕は小ぶりの鮑を見つけてしまいました。動画のテロップでも白状したとおり、「気づいたら買うとった」。見つけてから買うまでの記憶が、ほぼありません。(スカウトの決断、早すぎるやろ)
それでは、出演者のご紹介です。エントリーナンバー1番、小ぶりの鮑! エントリーナンバー2番、こちらも小ぶりの鮑!(紹介文、1番とまるかぶりや)
しかもこの鮑、新鮮でまだ生きています。やる気は十分。そう、今日の演目は「踊り焼き」です。
(生きとるのを焼くんは、正直ちょっと後ろめたい。せめて、ええ舞台にしたる)
本番の前に、出演者のプロフィールを見ておきましょう。意外な一行がありました。
💡 鮑は、平たいけど巻貝の仲間
鮑は平たい姿をしていますが、実は巻貝の仲間です。殻をよく見ると、盛り上がった部分に巻貝らしい模様が見つかります(宮城県 気仙沼地方振興事務所 水産漁港部の「アワビ」紹介資料より)。
平たい顔して、実は巻貝。(巻き、どこに置いてきたんや)
会場:ステージは焼き鳥グリル
会場はキッチン。まな板の上に、焼き鳥用の卓上電気グリル「名代 やきとり屋さん」を置きます。電気で焼くタイプです。
僕はふだん、このグリルを「電子コンロ」と呼んでいます。(正式な名前から、毎回ちょっと遠い)
このグリル、半額カルビを焼いた日はボクシングのリングでした。今日はダンスのステージ。本業は焼き鳥のはずなのに、毎回ちがう現場に呼ばれています。(焼き鳥を焼く日は、いつ来るんや)
スイッチ、オン。舞台が温まるまでのあいだに、出演者の身支度です。
本番前:塩とフォークで、楽屋の準備
まずは塩。トレーの鮑に、塩をふります。
それから鮑を手に持って、殻と身のあいだにフォークを差しこみ、身をはがしていきます。本番前に、衣装(殻)の着付けをいったんゆるめておく作戦です。
最後に流しで、水で洗い流します。
ところで、鮑の殻には穴が並んでいます。衣装の飾りボタン……ではなく、ちゃんと役目のある穴だそうです。
💡 殻の穴は「呼水孔(こすいこう)」
鮑の殻の表面にある穴は「呼水孔(こすいこう)」と呼ばれ、呼吸や老廃物の排出、精子や卵を放出するための穴です。成長につれて新しい穴が開き、一定の数を残して古い穴から閉じていきます(京都府農林水産技術センター 海洋センター「丹後の海の生き物(トコブシ)」より)。
第1幕:生きた鮑の「踊り焼き」
舞台が温まったところで、いよいよ本番。殻を下にして、2個を網にのせます。
すると、熱で身がくねっと動きはじめました。左の鮑、身をぐいっとずらして、ステップ! 右の鮑、身をくねらせて、ウェーブ!(本番に強いタイプや)これが、踊り焼きです。
(振り付け、誰も教えとらんのに……)
客席(僕)、感動と後ろめたさが半分ずつで、心の中の拍手もちょっと小さめです。
幕間:客席、ビール持ち込み
踊りのあとは、客席のほうも準備。缶のビールを、ジョッキに注ぎます。
ジョッキを持ち上げて、舞台に向かって掲げます。(本物の発表会でこれやったら、つまみ出されます。……いや、つまみは舞台の上におるんやけど)
幕間のうちに、パンフレットの続きを読んでおきましょう。
💡 日本の鮑の主な種類と旬
日本で獲れる鮑には、クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ、エゾアワビなどの種類があります。船橋市地方卸売市場の紹介によると旬は夏場で、エゾアワビは他の鮑と違って冬から春にかけてが旬です。
今回の小ぶりの鮑がどの種類なのかは、僕には見分けがつきません。(なので芸名は「鮑」で通してもらいます)
第2幕:トングと組んで、リフト
第2幕は、ペアの演目。トングで身をひっくり返します。
肝の側が上になって、決めポーズ。
肝といえば、ここだけは客席のみなさんに、まじめなお知らせです。
💡 春先の鮑の肝(中腸腺)には注意
鮑の内臓の「中腸腺」は、ウロ、ツノワタ、トチリとも呼ばれます。厚生労働省によると、2月から5月の春先の中腸腺だけが有毒になり、食べたあと日光に当たると顔や手が赤く腫れる「光過敏症」を起こすことがあるため、春先の中腸腺は食べないよう示されています。中毒の記録はきわめてまれです(厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」より)。
演出:醤油と料理酒、入ります
ここで演出チームの出番です。まずは醤油を、たらり。
続いて、料理酒も注ぎます。
照明さんも音響さんもおらん舞台ですが、醤油さんと料理酒さんがおれば十分です。(スタッフ、全員調味料)
フィナーレ:ええ色で、退場
しばらく焼いて、トングで身を元に戻します。ええ色になってきました。
網から下ろして、焼き上がり。鮑デュオ、ステージから退場です。(ここでスタンディングオベーション……の気持ちだけ)
終演後:殻に戻って、2個そろってごあいさつ
終演後は、まな板の上で仕上げです。包丁で殻から外して、食べやすく切ります。
切った身を殻に戻して、まな板の上に2個並べます。
そして講評。動画の最後、田舎マンのひと言はこれでした。
「鮑さん、よう踊ったなぁ」
動画は、ここで幕です。ここから先は、楽屋裏ということで。
約12分の発表会は、動画で
トレーの鮑とグリルの準備から、殻に戻して並べるところまで、本編約12分の動画にしています。踊りのキレは、写真ではどうしても伝わりきりません。(静止画で踊りを伝えるの、むずかしいんよ)
網にのせた所だけをまとめたショート動画もあります。
同じ焼き鳥グリルで焼いた半額カルビの回もあります。
📋 今回のまとめ(公演パンフレット)
- 小ぶりの鮑を発見して、気づいたら買うとった。出演者は2個、新鮮でまだ生きていた
- 鮑は平たいけど巻貝の仲間。殻の穴は「呼水孔(こすいこう)」
- ステージは焼き鳥用の卓上電気グリル「名代 やきとり屋さん」。半額カルビの回に続いての出演
- 本番前は、塩をふって、フォークで殻と身をはがし、水で流す
- 殻を下にして網にのせると、熱で身がくねっと動く。これが踊り焼き
- 客席のお供はビール。トングでひっくり返して、醤油と料理酒。身を戻して、ええ色になったら網から下ろす
- 包丁で殻から外して食べやすく切り、殻に戻して2個並べて終演
- 厚生労働省によると、2月から5月の春先の鮑の中腸腺(肝)は食べないよう示されている
- 講評は「鮑さん、よう踊ったなぁ」
おわりに:終演のごあいさつ
小ぶりの鮑を見つけて、気づいたら買うとった。始まりは、ほんとうにそれだけでした。
それが終わってみれば、焼き鳥グリルを舞台に、塩とフォークの身支度、踊り焼き、トングとのリフト、醤油と料理酒の演出。ちゃんと一本の発表会になっていました。
(スカウトした責任は、たぶん果たせたと思います)
最後は田舎マンが「鮑さん、よう踊ったなぁ」と師匠みたいな口ぶりで講評しましたが、冷静に考えたら振り付けは熱で、こっちは網にのせただけです。(師匠づらが、いちばん図々しい)
焼き鳥グリルさんも、リングに続いてステージまで、本業外のお仕事ありがとうございました。(リング、ステージと来て、次は何の会場にされるんやろ。焼き鳥は、まだ呼ばれません)
家で焼いた日の公演は、ほかにも半額のシャトーブリアンを焼いた日や半額の生さんまを電気七輪で焼いた日があります。(踊りはありませんが、どちらも名舞台です)
参考にしたページ
豆知識は、次のページを読んで書きました。
鮑は巻貝の仲間
宮城県 気仙沼地方振興事務所 水産漁港部「アワビ」紹介資料(PDF)
https://www.pref.miyagi.jp/documents/16731/dec_awabi.pdf
殻の穴(呼水孔)
京都府農林水産技術センター 海洋センター「丹後の海の生き物(トコブシ)」
https://www.pref.kyoto.jp/kaiyo/tokobushi.html
鮑の肝(中腸腺)と春先の注意
厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル:巻貝:ピロフェオホルバイドa(光過敏症)」詳細版
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/animal_det_16.html
鮑の主な種類と旬
船橋市 地方卸売市場「今月の旬の素材(アワビ)」
https://www.city.funabashi.lg.jp/shisetsu/shiminkatsudo/0003/0001/0005/p004308.html